アマービレを君に
Rui's story
遠くで泣き声が聞こえる。
早く起きなくちゃと思うのに、身体が動かない。
お願い……もう少しだけ寝かせて……
ママも疲れたんだ……駄目なママでゴメンね……
その時、声が止んだ。
心地いい風が吹いて……それに乗って何かが聞こえてくる。
泣き声じゃない。
あたしが凄く……好きな声。
「つくし?」耳元で甘い声がする。
「ん……」
「お腹空いたみたいだよ?」
「ん……」
あたしが手を伸ばすと、壊れ物を扱うように、手首を掴んで起こしてくれる。
彼の身体が背中の方に回り込んだと思ったら、あたしの腕の中に小さな赤ちゃんが収まった。
「後ろに寄りかかっていいよ……」
「ん……」
あたしは夢見心地でマタニティパジャマの前を開く。
赤ちゃんがおっぱいを探して口を小さく開けている。また……泣きそうになって顔がくしゃっとした。
「イイ子だね……」
類がそう言うだけで、あたしも赤ちゃんも穏やかな気持ちになる。
彼の声は……不思議なんだ。聞いて居ると凄く落ち着く。もしかして……超能力?
授乳口をめくって乳房を出す。最初は見られたくないと思ったけど、今はもう慣れた。赤ちゃんはすぐに乳首に吸い付いてきて、勢いよく飲み始める。反対側からもおっぱいが出てくる感覚がしたけど、パットを当ててるから大丈夫。
………それにしても……眠い。
「いいよ。俺にもたれて眠って。ゲップはさせとくから」
類の口から“ゲップ”なんて言葉、聞くとは思わなかった。だからつい……笑っちゃう。
「また変なこと言ってる」
類の声が遠く響く。
ああ、あたしってスゴク幸せ。
大好きな人の子供を産んで、赤ちゃんはとってもかわいくて、旦那さんは優しくて……
もしかして前世でめちゃくちゃイイことをしたんじゃないかなあ。
「例えば?」
え?例えばって……う~ん……
……偉大な発明?電気とかさ。
「電気工学ならニコラ・テスラだけど……男だよ?」
え?そうなの?
エジソンじゃなくて?
ま、いいや………
それならね~エジプトの女王!
………ん?何、笑ってるの?
「クレオパトラのこと?それって“いいことした人”なの?」
え?
う~ん……そう言われると違うかあ……
え~?なんだろう?あたしはどうして今こんなに幸せなのかな……
「つくしだから」
え?
「つくしだからだよ?理由なんて無い。あんたが俺の前に現れて……俺があんたを愛して……この子が産まれた」
「ただ、それだけ」
うん……
そうだね、類。
ありがとう……いつも……あたしの欲しい言葉をくれて。
「俺の方こそ、ありがとう。こんなに可愛い娘を産んでくれて」
ふふ……そうだ……
そろそろ名前、決めなくちゃ……
「そうだね……あっ……」
ん?どうしたの?
「ゲップさせる前に寝ちゃった」
よく寝る子だね。
類に似たのかな?
「赤ちゃんだからでしょ?それに俺、最近は昔ほど寝ないから」
そうか……なあ……
「よく寝るのはつくしだろ?」
「……っていうか、ちゃんと休まなきゃ駄目だよ。お母さんは」
うん……
でも名前……決めなくちゃ……
「………アマービレ」
え?
あま……びれ?
それ、名前?
漢字は?
あ……また、笑ってる。
「アマービレってイタリア語。“愛らしく”って意味だよ」
そう……なんだ……
アマービレ……愛らしく……可愛いね……
「yourって意味も込めて……結愛ってどうかな」
「………つくし?」
腕の中で、妻のつくしは既に寝息を立てていた。小さな赤ん坊を抱っこしながら。
そんな2人の温もりを感じながら、類はふっと微笑んだ。
1年前は、こんな風につくしと一緒になれるとは夢にも思わなかった。
だから今、手の中に在る幸福は……奇跡だ。
左側の窓に視線を移すと、夜と朝の境にある空が星々の輝きを飲み込み、白く光っていた。
瞳を、僅かに細める。
左の頬に僅かな温かさを感じて、類はそっと呟いた。
「Buona notte(おやすみ)」
「mia amata moglie(愛する奥さん)……」
*~*~*~* Fin *~*~*~*
8万拍手御礼のお話でした♪
いつも沢山の拍手とコメントを、本当にありがとうございます!!
気付いた方、いらっしゃるかもしれませんが、最近の御礼のお話にはある仕掛けが。
あきら君→妊娠発覚⤵
総二郎君→出産⤵
類君→乳児⤵
○○→?
……ということで9万拍手御礼も、お楽しみに♡
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