I’ll never love again 112 - I’ll never love again    
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I’ll never love again 112



 びくんと彼女の身体が震え、同時に我慢の限界を超えた司は、その背に自分の唇を強く押し当てた。



「どっ……みょ……じ!」
 電気が走るような感覚に、つくしは目を見張った。恐ろしくなり必死に体をよじるが、既に両腕とも強い力で掴まれおり全く身動きが取れない。


「……やめてっ!アンジェラさんが戻って来たら……」


「かまわねぇ……」欲望に掠れた声が、くぐもって自分の背中から聞こえた。「俺は……ずっと、こうしたかった」


「……道明寺!」


 なぜこんな事をするのか、男の真意がわからない。執着にしても……これはひどすぎる。
「離してよっ‼」


 持てる力の全てを発揮して、勢いよく司の腕を振りほどき立ち上がった。皮がすりむけた部分が直接冷たい床に触れ、ひりひりと痛かったが、それでも構わなかった。


「……道明…」「牧野」


 司の端整な瞳が、切なげに揺れていた。こんな目をする彼は……久しぶりに見た。
 怒りの言葉を発しようとした口が、先を告げられず力無く閉じていく。


「牧野。俺は……本当のことが知りたい」





 つくしは自分の耳を疑った。





 今……なんて言ったの……?





”本当のこと”?


 本当って……何?


 まさか……まさか……まさか……まさか⁈
 違うよね?
 あれは……あのことは……知られたくない………。
 絶対に……知られるはずがない……‼



 顔色が悪くなり、細い体が小刻みに震える。




 つくしの様子がおかしいことには全く気付かず、司は真剣な口調で先を続けた。



「お前は……昔……NYに来たんだろ?」


 それは彼女の懸念とは全く別の……しかし予想外の言葉だった。


「リードに聞いた。お前と初めて会った時のこと」


 やっとつくしは思い至った。目の前の男が何を言おうとしているのか……。


「土星のネックレスを付けて……お前は俺に会いに来た」
「……そうだろ?」



 男の視線は真っ直ぐにつくしを貫き、その体を縫い付けて彼女を一歩も動けなくした。



 会いに行った。
 確かに……恥ずかしげも無く。


 ただ側にいさせてほしいと懇願するために。
 NYへ行った。



 今考えてもぞっとするほど、自分勝手な振る舞いだった。



「俺は……」強い調子で言いながら司は立ち上がり、放心するつくしの両腕を取った。
「俺は……お前を、許す」



 え……と小さく呟かれた声は、つくしの口の中で掻き消えた。
 何を言われたのか。
 彼が何を言っているのか………。
 理解が、出来なかった……。



 彼女の顔が奇妙に歪んだ。



「何……を?何を……許すの……?」
 口の中が乾いて上手く発音できないが、なんとか絞り出すように聞いた。


 司は細い両腕を掴んだまま上半身を屈めて、目の前の女の顔を見つめた。
 そうして絵画のように美しい笑顔を見せる。まるで全てわかっていると言わんばかりの、自信に満ちた笑みだった。


「言ってたよな、あの時。”寂しかった”って」
「確かにそれは事実だ。お前をずっとほったらかして、寂しい思いをさせた。だからあの男と………そうなっちまったのも……今は理解できるって言ってんだ」




 つくしは自分の体中から血が噴き出して、どんどん冷たくなっていく感覚に捕らわれていた。
 この男との間には、深くて広い溝がある。それは決して埋められない……大きな溝だ。
 作ったのは間違いなく自分だが……17年経ってもそれは埋まるどころか、益々広がっていく。




 もう、どうすることも出来ない。
 全て自分が、そうした。




「だから、牧野。俺とNYに来い」
「12月28日、誕生日だっただろ?プレゼントがある」「こんなクソみてぇな茶番なんて出るの止めて、さっさとここを発つぞ」



 つくしは失意のどん底にいて、笑っていいのか怒っていいのか泣いていいのか、わからない。
 何もかもわからずに……ただなぜか、あり得ないはずのその事を、無性に聞きたくなった。



「……道明寺は……私のことが……好きなの?」

 
 司の笑みが、一瞬にして固まった。


「………何……だって?」
 ひび割れた声が虚しく周囲に響く。


「私と一緒に居たいって……そう思ってるってこと? だったら私のことが……」


「牧野。止めようぜ」


 朗々としたバリトン・ボイスが、つくしの悲鳴に近い訴えを一刀両断した。
 彼の切なげだった表情は跡形も無く消え去り、そこには企業家らしい、冷静に合理性のみを追求する2つの眼差しだけが在った。


「好きとか何とか……そういう下らねぇ感情論に拘るのは時間の無駄だ。俺たちは身体の相性は抜群にいいじゃねぇか。それにガキが出来たら……責任ってもんがあるだろ」




 つくしは思わず、叫び出しそうになった。



 子供………?



 この男は未だに、そんなバカげた事を信じているのか。
 呆れを通り越し、憐れみすら覚えた。
 



「……それなら残念だったね、道明寺」
「私は妊娠なんてしてない。だからあんたには、何の責任も無い」


 嘲るように言い放ちその場を後にしようと、出口の方に体を向けた。
 だが一瞬早く、乱暴に手首を掴まれた。


「何するの……!離して!」


 強い拒絶の意思が伝わってきて、司はいつもの焦燥感と制御できない苛立ちが、頭をもたげてくるのを感じた。
 掴んだ腕を無理やり捩じ上げる。


「痛っ!」


「指輪、どうした」彼女の瞳が揺れた。
「外すなって言っただろ。なんでしてねぇんだ」


「……何言ってんの……」「出来るわけない!」


「なんで出来ねぇんだよ」


 ふっと……つくしの胸にこみ上げてきたのは怒りの感情だった。
 彼女の脳裏に浮かぶ……目にしたばかりの結婚指輪。


 レッドダイヤモンドの輝きが、そのまま2人の揺るぎない愛を象徴していた。だから……つい口が滑った。


「………あんたは何なのよ……」


「あ?」


「あんたの奥さんは……凄い指輪を付けてるじゃない‼ 左手の薬指に……あんなに綺麗な……」


「おい!」

 遮った口調は微かに震えていた。彼女を見つめる司の瞳の中に在るのは、歪な歓喜だ。
「お前……嫉妬してんのか?」
 

「………え?」


「アンジェラに……嫉妬してんだ」
「……そうだろ」


「ちがっ……」




 否定しようとしたつくしの手が、司の方に引っ張られる。振りほどく間もなく、彼の唇が近づいてくる。
 
 鈍い痛みを感じた。
 左手の薬指に。

 残酷な赤い歯形が、浮かび上がった。





「あんな玩具よりも、こっちの方が価値があるだろ」
「……お前は俺のものだって……証だ」





 男の目には、愛では無く妄執があった。馬鹿馬鹿しい闘争心があった。だがらつくしの心は、限りなく冷えていった。
 彼の子供じみた執着心が、嫌で堪らなかった。


 早くここから立ち去ってしまいたい。


 無言のまま、掴まれた手を振りほどいて背を向けた。
 ーーーーー その時だった。



「あいつか……」


 明らかにトーンが違う、喉の奥から振り絞るような声に、つくしの足が止まった。


「佐藤亮二」


「亮二さんが……何……」


「あいつとヤったのかよ?」

 
 つくしは不快感を露わにして、妄言を放つ男を睨みつけた。
「何を……言ってるの?」



 だが司は既に、何も耳に入らない状態だった。



 大きな両手がつくしの細い輪郭を押さえ、むりやり自分の方を向かせる。近づいて来る顔の造作は嘘のように美しかったが、その目には醜い欲望が荒々しく渦巻いていた。
 つくしは彼の厚い胸板に手を当て、必死に抵抗した。しかし鍛え上げられた男の肉体に敵う筈も無く、唇はやがて抗い難いほどの力で塞がれてしまう。



 それは初めから激しく、つくしを奪った。



 上唇を甘噛みしながら、下唇が熱い舌でなぞられる。角度を変えより深く、それはつくしに侵入しようと勢いを増す。
 唾液の混じる卑猥な水音が、意思とは無関係に女の欲望に火を灯していった。



 ここは公共の場で、いつアンジェラが戻るかわからないのに………。



 大胆に開いた背中から、司の手が胸の方に回る。ドレスのデザイン上、今日は下着を付けておらず、2つのふくらみは直接彼の手の中に納まった。


 扇情的に胸を揉みしだかれ、小さな唇から声が漏れた。
 男はやっと唇を離し、低いよく通る声で囁く。


「あいつより俺の方が何倍も……お前を くできんだよ……」
「……お前は俺を選ぶ……そうだろ?」





 耳にした瞬間………つくしは………




 身勝手な司も。
 キスに煽られる自分も。




 ーーーーー 許せない、と思った。
 




 ずっとずっと永い間……握り潰し、押し込め、何重にも何重にも封じ、鍵をかけ、蓋を閉め、見て見ぬふりをしてきた何もかも……
 その外殻に、歪なヒビが入るのを感じた。






「…………してよ……」



 司は不意に、手を止めた。



「………いい加減に、してよ」


 その声のトーンが自分の知っている女のものとはまるで違っていたので、彼は驚いて手を離した。
 思わず後ずさり彼女を見れば……その顔には嘲りと怒りと……明らかな情欲の焔が燃えていた。


「本当のことが知りたいの? だったら教えてあげる」


「………あ?」


「その代わり……」
 嫣然と……つくしは笑った。


「あたしを満足させてみて」







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Comments 12

NUN
NUN
Re: タイトルなし

ゆ****様

6万拍手、ありがとうございます!
感謝でございます!というか感謝しかありません!
皆様のおかげです!本当にありがとうございます!!

暑くて半分ミイラ化してますけど、執筆のスピードもかなり落ちてますけど。
黒い類君スキって言って下さるので嬉しいです。
私と趣味が同じ方が・・・フフ♡

皆様に励まされて頑張ってます!!
これからもよろしくお願いします!!

  • 2020/07/06 (Mon) 19:31
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NUN
NUN
Re: 拗れ

J*****様

コメントありがとうございます!

NUN名物のジレジレ地獄へご案内の回でございます!
司君はまた迷走してしまうのでしょうか?

少しは大人になってくれるといいのですが(汗)

  • 2020/07/06 (Mon) 19:26
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NUN
NUN
Re: タイトルなし

s****様

コメントありがとうございます!

一瞬、靴を舐める坊ちゃんが浮かんでしまいました。
いかんいかん……
それはまだ別の話に……(エ?)

  • 2020/07/06 (Mon) 19:20
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NUN
NUN
Re: タイトルなし

a**様

コメントありがとうございます!

私もいつも皆様から頂く愛で、ウキウキドキドキの毎日です♡
感謝しかございません!

これからもマイペースで頑張りますので、よろしくお願いいたします!

  • 2020/07/06 (Mon) 19:18
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NUN
NUN
Re: タイトルなし

悠*様

コメントありがとうございます!
そして素敵なパロ、感謝です!またまた笑っちまいました!

アンジェラはちと血迷ったようですね。もう戻って来る頃ですが…
類君は今頃、進と静さんとお洒落なカフェで茶をしばいてることでせう。

6万拍手、ありがとうございます!皆様のおかげでございます!
暑いので干からびそうですが、皆様からパワーを頂いて頑張ります!!

  • 2020/07/06 (Mon) 19:15
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NUN
NUN
Re: タイトルなし

e****様

「共依存」
なんて素敵な響き、そしてその言葉が抱く背徳感は堪りません♡
谷崎潤一郎様のお名前が出ると、ビビりますがニヤリとしてしまいます。

類君が望んでいたつくしちゃん、爆誕となりますか!

いつもコメントありがとうございます!

  • 2020/07/06 (Mon) 19:11
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  • 2020/07/06 (Mon) 18:22
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  • 2020/07/06 (Mon) 17:11
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  • 2020/07/06 (Mon) 14:44
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  • 2020/07/06 (Mon) 13:13
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  • 2020/07/06 (Mon) 13:06
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  • 2020/07/06 (Mon) 11:57
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